夜間救急専門のクリニックに転職してから、6年間勤務する柿沼さん。医療を通して、患者さんの診療に対する思いや行動について、考えることも多いといいます。また、このクリニックのほかに、老人ホームの看護師としても非常勤で働いているという柿沼さん。死生観についても語っていただきました。最終回は、柿沼さんの思いをじっくりかみしめて読んでください。

*柿沼恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

柿沼恵子(かきぬま・けいこ)さん

image003

川越救急クリニック看護師長。看護専門学校卒業後、埼玉医科大学総合医療センターに勤務。手術室に4年間勤務後退職。常勤で二次救急指定の大学病院に勤務、ICU/救急外来兼任の部署に配属。勉強会で知り合った埼玉医科大学の上原淳医師が川越救急クリニックを開業すると聞き、二度目の勤務先を退職し、二次救急病院の手術室にパートタイムで勤務しながら待機し、開業とともに川越救急クリニックに転職。6年目となる。クリニック以外でもさまざまな医院・老人ホームなどで経験を積むためにパートタイム勤務。

患者さんは「救急」を再考する必要も?

――クリニックに来る患者さんは、どういう人が多いですか?

もちろん、夜間などに急に具合が悪くなる方、ということですが、割合からすると、お子さんが多いですね。お子さんは夜間に急に熱を出したり、ひきつけたりすることが多いですから。お母さんも、ご自分の体調ならご自身で体感し、「これなら明日でも大丈夫」と判断できますが、お子さんのことだと心配で心配で、救急車を呼ぶことも多いようです。

ただ、熱が高くても眠れていたり、落ち着いているのならば、翌朝まで様子を見る、という判断もあるかもしれません。夜間にお子さんを起こして着替えさせ、自分もしたくをして出て来るのは負担も大きく、かえって病状を悪くすることもある、というのは、診ていて実感します。

昨今は少子化で、お子さんがひとり、という方が多いですよね。子育て経験が少ないと、お子さんの病気の経験も少ないので、よけい心配になってしまうのかもしれません。また、最近はどこの自治体でも、乳幼児あるいは学童の医療費は無料のところが多く、それも、夜間来院のきっかけになっているかもしれません。

もちろん、救急医療はどなたでも利用してもいいのですが、お母さんの不安がもう少し少なくなるといいな、と思います。当院が何かお母さんたちの役に立てばいいのかもしれません。今後の課題ですね。

命の尊さをどう考えるかが、今後の課題

川越救急クリニックのスタッフの皆さん。中央が上原医院長
川越救急クリニックのスタッフの皆さん。中央が上原医院長

――柿沼さんは老人ホームでも看護師として働いているのですね。

はい、勤務時間外に、民間の宅老所のようなところでお手伝いをしています。空いている時間に、もっと経験を積みたいと思って。救急医療とはまったく違う視点で医療に携わり、とても勉強になります。

高齢者の方に対する医療は、「命を救う」「病気を治す」という視点とは別の視点を持つことになります。治らない病気を抱えている方は多いですし、命のタイムリミットも、だんだん近くなっています。その時間をどう幸せに過ごしていただくかに、重点を置く医療になると思うのです。

しかし、病院での高齢者医療は、延命を目的にしたものもあります。急変して病院に運ばれて来れば、ほかの患者さん同様、蘇生をすることが多いです。「蘇生を希望しますか?」と聞いて、ご家族が希望すれば、そのようにするのですが、胸を押すことで骨が折れ、ますます苦しくなることもあります。その後、経管栄養で管につながれ、ずっと天井を見ながら生きていくのは、ご本人にとって幸せなのだろうか、と考え込んでしまうこともあります。

その方の命が尊いものであることを、大事にしたいと思います。1分でも1日でも長く生きることに意義があるのか、その人らしく生きて亡くなっていくことが大事なのか。
延命治療をし経管栄養になってから、ご家族が1年に数回ぐらいしかお見舞いに来ないケースも多々あります。少し寂しいですね。

医療とは、命さえ救って心臓を動かせばいいのではなく、尊い命をどう大事していくか、ということが根本になくてはならないと思います。夜間救急専門のクリニックにおいても、このことを考えながら、みなさんの命を大事にしていきたいと思っています。

<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>

*柿沼恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

柿沼さんが考える 「夜間救急専門クリニックに向くナース・向かないナース」

<夜間救急に向くナース>
・テンポが速い人
・判断力のある人
・はじめてみる人でもいつもの状態を想像し、現状と比較できる人
・「何かヘンだ」という勘が働く人

<夜間救急に向かない人>
・ゆったり働きたい人
・規則正しい生活を送りたい人