在宅医療連携拠点「菜のはな」の看護師として歩み始めた秋元さん。院内で仕事をしていた日常とは打って変わり、地域に出て、市民と触れ合う日々です。生活の変化、責任の変化を楽しみながら、地域に根差すナースとは? の答えを、日々積み重ねています。秋元さんのインタビュー最終回では、看護師という仕事の可能性の大きさを、伝えていただきます。

*秋元里美さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

秋元里美(あきもと・さとみ)さん

image003

東埼玉総合病院内 在宅医療連携拠点 コミュニティナース。経験30年のベテラン。高校卒業後に准看護師資格を得て総合病院に勤務。29歳のとき一念発起し、看護学校に入りなおして正看護師資格を取得。復帰後に結婚し、出産・育児のため10年間休職する。クリニック、訪問看護事業所勤務等を経て、2005年から東埼玉総合病院に勤務。2016年4月からは地域を支える看護師(現職)となる。

住民主導の地域連携をうながす仕事

――在宅医療連携拠点「菜のはな」は、どのような場ですか?

埼玉県幸手市と杉戸町の行政、北葛北部医師会の委託による、在宅医療や介護・福祉の相談窓口です。地域の方々が、住み慣れた地域で安心して在宅医療が受けられるよう、ご本人やそのご家族などからの在宅医療や療養に関する相談をお受けしています。
ケアマネジャーの資格を持つ看護師を中心にお話を伺うので、看護と介護、両方のサービスや情報についてもお伝えできます。その拠点が、東埼玉総合病院内にあるのです。

しかし、市内にお住まいの方でも、車やバスなどを使って病院に来るのは大変です。そこで、「地域の方々が、自宅のそばで相談ができるように」と設けられたのが、「暮らしの保健室」。幸手市と杉戸町の団地の中や住民の方のご自宅など、暮らしに密着した場所にあります。そして、私たちコミュニュティナースはそこに出向いて、地域の方の相談を受けるのが主な仕事です。

行政も含まれた委託ですが、住民主体の活動です。在宅医療拠点事業推進室室長で、東埼玉総合病院の内科医師でもある中野智紀ドクターはいつも「地域連携は、行政が音頭をとるべきものではない。住民主体でなくては意味がない」と言っています。

どこの地域でもそうなのでしょうが、地域には、地域のことを考えて志を持って活動するインフォーマルサービスの担い手たちがいます。幸手市と杉戸町にも、だれでも集まれるコミュニティカフェを経営する方や、シニア世代と若い世代がいっしょに過ごす場づくりをする方など、たくさんの方がいます。
そういう方々を「コミュニティデザイナー」と名付けて、地域のみなさんに紹介し、ネットワーク化して、暮らしやすい町を作るのも、「菜のはな」の仕事です。
そして、自分たち看護師のことは、地域の中で活動するので、「コミュニティナース」と呼んでいます。

シールが貼られているのが暮らしの保健室。現在31拠点。拠点数も、参加者や相談者もどんどん増えています。
シールが貼られているのが暮らしの保健室。現在31拠点。拠点数も、参加者や相談者もどんどん増えています。

ここでも、患者さんとの関係は、「人対人」

――秋元さんも、病院の看護師の仕事にとどまらない、本当に幅広い仕事をするわけですね。

そうですね。以前に関わった訪問看護より、もっと幅広い知識や経験が必要な仕事だと思っています。しかし、一朝一夕には知識も経験もつきません。まずは、「顔を売る」ことが大事だと思い、「菜のはな」のリーフレットを持っては、名刺代わりにしてあちこちに出掛けています。電話相談もたくさん受けます。そうやってどんどん知り合いが増えていくことが、この仕事のベースにもなっています。

――中には、看護師だけでは解決できない問題もありますよね?

はい。即断できないときは、「少し待ってください。あとで電話しますね」と言って、関係する各所に問い合わせ、支援をあおぐことも多いです。
支援や連携をあおぐ際は、行政や地域包括支援センターにお願いすることもありますが、コミュニティデザイナーの方々の力を借りることも多いです。住民が住民のために動き、それをサポートする。それが、私たちの仕事の本質だと思っています。

そんなふうに、住民の方々と密にお話する機会が多く、本当にたくさんのことを学ばせていただいています。そして、お元気な方が多いというのも、刺激されますね。70歳で富士山に登った方、75歳で樹海にいらした方。素直に「すごい!」と感激します。料理のしかた、生活のしかたなども、人生の先輩たちに教えていただくことがとても多い。

患者さんと看護師という立場ではなく、ここでも「人対人」。そんなふうに地域でお付き合いできる今の仕事は、とてもやりがいのある仕事だと思っています

*東埼玉総合病院・中野智紀ドクターの取り組みは、こちらでもご紹介しています。
→ 地域の医療・介護連携のヒント…医療系学生団体Miのイベントより 2

*秋元里美さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

秋元さんが考える 「コミュニティナースに向く看護師」

<コミュニティナースに向く看護師>
・「人が好き」な人
・じっくり人の話が聞ける人
・地域に出ていくことが楽しいと思える人
・さまざまな場で学びたい人