サ高住の入居者さんの看護を中心に、訪問看護師として勤務する渡辺さん。看護師の原点を確認し、患者さんを支えたい、という使命感のもと、仲間と勉強会を開いています。
一方、医療法人社団の看護部長という立場で組織全体を見極め、後輩を育てるという大きな任務もあります。

最終回の今回のインタビューは、仕事を探し、看護師という仕事にまい進する読者のみなさんにも、きっと実践的に役立つ、看護の大先輩のお話だと思って、聞いてください。

*渡辺美恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

渡辺美恵子(わたなべ・みえこ)さん

4_1医療法人社団 悠翔会 看護部長。病院の助産師10年務めた後、デイサービスの看護師として4年間勤務。訪問看護の魅力に目覚め、地元の在宅療養支援診療所で訪問看護師を13年務めた後、2009年より現職。3人の子どもを育てながらフルタイムで勤務。在宅で働く看護師の仲間と「生活を支える看護師の会」を立ち上げ、勉強会を開く。また、悠翔会が地域・多職種連携のために定期開催する「在宅医療カレッジ」の運営にも深くかかわる。

患者さんの生活を支えるために勉強する

――渡辺さんが運営メンバーになっている「生活を支える看護師の会」は、どんな会なのですか?

看護師って、どういう役目があるのだろう、といつも考えるのです。現場での対応に悩んだり悶々としたりすることもあります。

そこで、月1回、勉強会を開催しています。運営メンバーは、在宅医療、訪問看護、病院、老健、有料老人ホーム、特養ホームなどに勤務する看護師が中心。
その方の“生活を支える”こと、看護を共に考え、行動し、誇りと覚悟を支え合い、学び合う会です。看護師だけでなく、医療、製薬、介護職など、どなたでも参加できるグループです。

「生活を支えるとは何か?」というテーマについても、メンバーと議論しています。答えが明確に出ているわけではないですが、私は、「看護師は、生活を支えるプロフェッショナル」だと思うのです。もちろん、家族や介護職も、ご本人の生活を支えるわけですが、私たちは、医療と生活をつなげる専門職だと思います。

例えば、体調がすぐれない人がお風呂に入りたいときに、入れるかどうかは、血圧の値だけでは決められない。多くは入りたい方には入ってもらいますが、体調や性格、さまざまな要因を加味し、多職種と相談し、その方が大切にしていることを支えることが、看護師の役目だろうと思います。

そこに介護職やご家族がいれば、看護師は、生活を支えるために、ハブの役割をしていくことも大切です。ファシリテーターとして、多職種の方に発信していくことです。

そのためには、常に学ばなければいけないと思います。

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「生活を支える看護師の会」のfacebookページ。誰でもグループに参加できる

何かを「する」ことが目的ではなく、「ともにある」

――渡辺さんは、悠翔会の看護師の求人や面接なども担っていますよね。

はい。これまで、看護師といえば、病院に勤務する、と考えている方も多かったですが、「これからは在宅」とか「在宅に関わりたい」と言って応募し、面接を受けてくださる方も多くなりました。

ただその際に、「訪問看護には憧れるけれど、ひとりで利用者さんのお宅に伺い、判断しなくてはならないから、自信がない」、という人も多いです。病院はチームで動きますし、わからなければその場で相談できる先輩がたくさんいる。

悠翔会は、主として今は、私のような「訪問看護」の仕事と、医師の訪問診療に同行する「診療同行」のふたつの場面の仕事があります。一人で訪問するのは自信がないという方の中には、医師に判断をゆだねることもできる「訪問診療の同行のほうが始めやすい」と思う方もいるようです。でも、それは少し安易かな、と思いますね。

訪問診療の同行は、直接的な診療の補助とともに、医師とご本人・ご家族をつなげることも大事な仕事。地域とのかかわりも重要です。
つまり、「患者さんやご家族を支える」、「地域を支える」、「医師を支える」。これは当法人看護部の永遠の目標ですが、それが、すべてが看護実践です。

また一方で「看護師の診療同行」は期待されていますが、コスト面では、診療報酬に反映されませんし、医師とドライバー、医師とドライバー兼看護師で訪問する診療所が多いと思います。

今後は看護師の動きが数値化されていくと思います。そして、看護師も学ぶことで、自身の機能を大きく広げながら、その活躍する場面が広がっていくことでしょう。

在宅療養支援診療所の看護師の業務は、診療同行と訪問看護だけではないと思います。診療同行にしても訪問看護にしても、医師とご本人と家族と地域をつなぎ、必要な場面では、その場面をアセスメントし、看護師としての助言をする。どちらも、看護師として、その行動に看護の理由づけを持つことが大切です。
そして、素直さが大事だと、個人的には思いますね。

病院の看護師の役割はその方を治療するための看護です。しかし、訪問看護や診療同行は、その方らしく、そこで生き抜くためのお手伝いをするために、そこで、ともにあり続けることが大切だと思います。

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「Not doing , but being」(シシリー・ソンダースのことば)

何かをすることではなく、その人とともにいることが大切なのです。明日もきちんとケアできるよう、自分の体調やメンタルを調整し、自身の身の丈を知りながら、自分らしく、患者さんの生活を支えていってほしいですね。

*渡辺美恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

渡辺さんが考える 「訪問看護に向くナース・向かないナース」

<訪問看護に向くナース>
■素直な人
■人との関わり、在宅が好きな人
■ファシリテーター的な要素を持っている人

<訪問看護に向かないナース>
■夜勤がなくてラクだと思う人
■患者さんの「その人らしさ」を尊重できないひと
■謙虚ではない人