利用者さんの在宅生活全般を見ながら、病気の予防に努める看護師・柳下さん。この仕事のほかにも、さまざまな活動をしています。看護師の仕事を通して、地域とつながりを持ち、事故も予防する。そんな柳下さんの、社外での活躍や、今後の希望についてお聞きしました。

*柳下将徳さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

柳下将徳(やぎした・まさのり)さん

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小規模多機能ホーム「ぐるんとびー駒寄」看護師。高校卒業後専門学校に入学し、医療事務・簿記・ヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修に相当)を2年間で取得後、神奈川県内の総合病院で病棟クラーク業務に就く。23歳から4年間、看護学校で学び、正看護師の資格を得る。同病院に戻り、生活相談員とともに退院後の生活指導と生活環境整備担当として4年間勤務。2015年8月より、小規模多機能ホームぐるんとびーに勤務。

看護師と救急の連携で命を救う

――ところで、柳下さんは2016年1月に、電車の中で心肺停止状態になった男性を救って、地域の消防から表彰されましたね。

雪の日で、いつもは車通勤なんですが、車に乗るのはあきらめて、最寄りの戸塚駅に向かったんです。すると、倒れている男性が。僕を含め、偶然通りがかった看護師が3人いて、3人で協力して対応しました。

僕が心臓マッサージしている間に、駅員さんがAED を持ってきてくれて、心肺蘇生をしたら、呼吸が戻ってきた。そこへ、救急隊が到着。持ち物などから身元も確認でき、ご家族にも迅速に知らせることができたんです。ラッキーでしたね。発見から5分で病院に搬送することができました。

病院に着く頃には、すっかり意識を取り戻されました。ほかの病気も見つかって、手術をしたのですが、それもタイミングがよかったのではないでしょうか。倒れてから2、3週間で社会復帰され、今もお元気でいらっしゃるようです。

よい偶然が重なりましたね。協力し合える看護師と、救急の専門家がいてこその救命で、僕が表彰されたこともまた、偶然の結果だと思います。

特別なことをしたわけではありません。普段からぐるんとびーでやっているケアと本質は同じです。ただ、目の前で困っている人、助けがいる人がいたらケアする、地域で人と人とが支え合うという仕事の目標を、実生活でも実現できた出来事でした。

消防署での感謝状贈呈式。救助した男性からも感謝の言葉をもらったそう。
消防署での感謝状贈呈式。救助した男性からも感謝の言葉をもらったそう。

――また、『鎌倉戦隊ボウサイダー』としても活動していらっしゃいますね。

3・11で、釜石に津波が来たとき、津波からの避難訓練を重ねてきた釜石市内の小中学校は、整列や点呼をせず、即座に高台に避難。生存率99.8%だった、という奇跡の事例があります。
実は、鎌倉・湘南地域も、釜石と同じような土地柄で、海があり、砂浜があり、山がある。ただ、高台までが遠いなど、条件は多少違いますが。

しかし、とにかく、津波が来たら、何もかも気にせず逃げることを徹底してほしいのです。それを伝えるのが、ボウサイダーなんです。大人は、家財が気になって家に戻る人がいます。まして、家に子どもがいるんじゃないか、などと思ったら、すぐに自分だけ逃げられない。だからこそ、まず子どもたちに、「人のことを考えずに高台に逃げる」ことを徹底してもらおうと、活動しています。

ボウサイダーの活動詳細はこちら→ http://www.bowcider.com/
ボウサイダーの活動詳細はこちらhttp://www.bowcider.com/

全員がそれぞれ、高台に逃げたら、命を落とさずに済む。子どもたちの死者ゼロを目指しています。だから、地域イベントのたびに参加させてもらっています。実際に、海辺のイベントに看護師がいると、役立つことがあると思いますから。

また、4月の熊本の震災では、ボウサイダーとぐるんとびーが協力し、熊本災害対策チームを作りました。熊本の地震で被災した方々に直接支援をするチームで、地震が起きてすぐに、ぐるんとびーの代表・菅原は現地に赴いています。物資の寄付は混乱しやすいので、募金という形で的確な支援ができれば、と動いています。

こうした活動から、助け合いの気持ちが芽生えるといいな、と思っています。

地域連携の充実が、健康維持につながる

――それらの活動はお仕事ではなく、ボランティア活動なんですね。

はい。利益にはなりませんが、地域と深いつながりを持ち、助け合うことの大切さを発信できる大事な場です。

これからは、いかに介護報酬や診療報酬を高くつけるか、などということではなく、自分たちが主体となって、介護や看護を地域の中で実践していくことが重要ですよね。自治体が何をやってくれるか、ではなくて、活動の主体は地域住民。地域の資源や地域の人たちと連携し、健康を維持し、事故の防止や介護予防につなげていくことが重要です。

ぐるんとびーの看護業務の中でも、地域連携は重要なカギです。ケガや病気で入院し、退院してきた利用者さんが、もとの生活にスムーズに戻るためには、病院スタッフ、地域医療、介護などが、その人を中心にしていい連携を取っていくことが本当に大切です。

また、ぐるんとびーの利用者さんは高齢者ですが、ここは高齢者だけが使う施設ではありません。子どもたちが遊びに来たり、利用者さんでない近所の人たちが、うちのレクリエーションに参加したり。そうした交流の中で、地域の人たちがみんな、生き生きと健康に過ごせ、病気やケガの予防ができることが、看護師としての自分が目指すところです。

何も起きないことが一番ですよ。地域のみんなが一緒に笑いながらご飯を食べられる。そんな環境をいつも作っていられるように、僕がここに存在しているのだと思っています。

*柳下将徳さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

柳下さんが考える 「高齢者看護に向くナース・向かないナース」

<老人ホームに向くナース>
■患者さんの生活全体を見たいと思う人
■じっくりものごとに取り組む人
■患者さんのいつもの体調との違いをきめ細かく発見できる人

<老人ホームに向かないナース>
■スピードを重視しすぎる人
■病気そのものに着目し、人として患者さんを見ない人
■地域とうまく連携できない人