生命の誕生という神秘を生み出す助産師から、訪問看護を担う看護師に。その役割も仕事内容も大きく違う世界で、「この仕事ほどやりがいのある仕事はない」と言う渡辺さん。何がやりがいなのか、その中身を詳しく聞いてみました。
看取りのエピソードを熱く語りながら、声を詰まらせる渡辺さんに、「看護とは何か」の根幹を考えさせられます。

*渡辺美恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

渡辺美恵子(わたなべ・みえこ)さん

3_1医療法人社団 悠翔会 看護部長。病院の助産師10年務めた後、デイサービスの看護師として4年間勤務。訪問看護の魅力に目覚め、地元の在宅療養支援診療所で訪問看護師を13年務めた後、2009年より現職。3人の子どもを育てながらフルタイムで勤務。在宅で働く看護師の仲間と「生活を支える看護師の会」を立ち上げ、勉強会を開く。また、悠翔会が地域・多職種連携のために定期開催する「在宅医療カレッジ」の運営にも深くかかわる。

訪問するとその人の人生のドラマがわかる

――渡辺さんは、「在宅診療や訪問看護は楽しい」とおっしゃいます。何が楽しいのでしょうか?

稚拙な表現ですけれど、行くとその患者さんに元気をもらうんです。終末期の患者さんからもです。ケアをさせてもらって、ケアをしていただいているのかもしれません。

みなさん、病気を抱えても、老いて体が不自由になっても、一生懸命に生きていらっしゃる。そこに感激するというか。誤解を恐れずに言えば、いとおしいというか、大変なことを抱えながら一生懸命に生きている姿に共鳴するというか……。

ご自宅の一室で、病気そのものを看ているのではない。その方らしい空間の中で、その方が生きていることを、訪問看護を通して見せていただいているんですよね。

訪問で伺うお宅は様々です。いままで伺った中には、いわゆるゴミ屋敷と言われるようなお宅もありました。人が見れば、その空間はごみが散乱した部屋で入ることも憚られるかもしれない。ゴキブリがはっていたり、汚物が落ちていることもある。
けれど、それは時を重ねて、できない状況があって、部屋を整えることができなくなっているのです。

そんなことよりも、ずっと貼ってあってはがされていない、例えば昔のアイドルのポスターなどに、その方の人生を垣間見ます。その方の人生の物語をうかがったり、感ずる中でその方が大切にしてきたものを教えていただくのです。

私たちは、そんなドラマを、毎日見せていただいている。それこそが、「生きてきた」という生命の証で。体調管理に伺う、生活を支えるといいながら、むしろ、私たちのほうが、いただいているものが大きい気がします。

看取りをしながら人の命の尊さを知る

――看取りをすることもありますね。

3_2はい。先日は、慢性心不全で90歳を超えている方の看取りを、このサ高住でさせていただきました。ご本人は、食べる意欲はあったのですが、お味噌汁もむせるようになって、だんだん食べられなくなっていって。胃ろうや輸液を使えば、もう少し生きていられます。でも積極的な治療をしないと、ご本人もご家族も希望されました。

最期はもう本当に痩せて小さくなられて。声も出なくなっていました。だれもが、「もう長くない」と思える中で、忙しくてずっと来られなかった娘さんが、かけつけてこられました。そうしたら、最後の最後の力を振り絞って、ベッドからぐーっと上半身を起こしたんです。

持つことはできないかと思ったのですが、とっさに自分が持っていたボールペンと紙をお渡ししました。すると、娘さんに向けて、書かれたのです。「よく来てくれた・・・」って。

仕事に毎日追われている中を駆けつけてくれた娘さんをずっと心配しておられましたから、本当は、娘さんを抱きしめたかったんだと思います。60歳を超えた娘さんと、もう命が消えそうなお母さん。お母さんが娘さんをいたわり、かわいがる心は、若い頃と変わらないんですよね。

その翌日、案じていた弟さんと妹さんも駆けつけてくださったのを見て、安心されたのか亡くなりました。ご自身が亡くなることはわかっていらしたと思います。介護職員も私たちもたくさんの励ましをいただいた素敵な方でした。介護職、看護師、ご家族、全員で身支度をさせていただきました。凛としたお姿でした。忘れることはないと思います。

見届けさせていただいた看取りは、どの方も忘れられません。

ある方は、肺炎で入院していた方なのですが、退院後、これ以上積極的に治療をしないことを医師と相談し、息子さんが経管栄養の中止を選択されました。水分と電解質だけを少しずつ、入れていますが、最近、お別れの時が近づいたことをお話をしました。母のために決めたことですからと言って、ただ静かにぽろぽろと涙をこぼされていました。

終末期になって、介護負担が大きくなり、ご家族にも疲れが見えると、時になぜか、ご家族が休んでいるときにお一人で息を引き取ったこともあります。

私たちは、ひとつひとつの命の尊さを、目の前で見せていただいているのです。かけがえのない仕事だと思うのです。


次回は、いよいよ最終回。採用面接も担当する渡辺さんに、訪問看護に向く看護師・向かない看護師についてもお聞きしました。

*渡辺美恵子さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

渡辺さんが考える 「訪問看護のやりがい・楽しさ」

■患者さんのこれまでの人生を感じ、ともに紡いでいくことができる
■そのひとの生活全体を支えるお手伝いができる
■家族の絆を拝見し、その絆を支えるお手伝いができる
■命の尊さ、人としての最期の美しさに触れることができる