病院の医療事務職から一念発起、23歳から看護専門学校に通い、看護師の資格を得て働き始めた柳下さん。しかし、やがて、病院とは別の場で役立ちたいと思い始めます。だれしも仕事に疑問を持ち、立ち止まるときがあります。そんなとき、どうしたらいいか――。柳下さんの行動力はとても参考になります。

*柳下将徳さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

柳下将徳(やぎした・まさのり)さん

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小規模多機能ホーム「ぐるんとびー駒寄」看護師。高校卒業後専門学校に入学し、医療事務・簿記・ヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修に相当)を2年間で取得後、神奈川県内の総合病院で病棟クラーク業務に就く。23歳から4年間、看護学校で学び、正看護師の資格を得る。同病院に戻り、生活相談員とともに退院後の生活指導と生活環境整備担当として4年間勤務。2015年8月より、小規模多機能ホームぐるんとびーに勤務。

病院の空気感に自分が合っているか

――念願かなって看護師として病院に戻り、退院相談を担当。やりたかったことに近い職業を得ましたね。

そうですね。退院後の患者さんは、自宅に戻って訪問介護サービスを利用する、リハビリ病院や老人保健施設を含めた老人ホームに入るなど、いろいろな道があります。自分はヘルパー2級の資格を持っていましたし、ほかのスタッフより外部の介護サービスへの理解も深かったので、役に立てているという実感が持てました。

が、病院の看護師として、自分は合っているのか、そこに小さな疑問を持ち始めたのも確かです。
病院の看護師は、スピードを求められることが多い。また、当然ながら医師の医療補助という業務が中心で、患者さんの気持ちのケアを十分にする時間が持ちにくいのも事実です。

そのことに、はがゆさを感じるようになりました。
患者さんが痛い、とナースコールをしても、すぐ行ける体制にないことも多いです。一方で、「痛い」と言っているときに、薬や処置で痛さを解消することだけではなく、「気持ちに寄り添う」ことで、痛みを軽減することもあるわけです。

僕はもともと、「病院という場で、看護師という立場で、患者さんを処置する」というふうにあまり思いたくない。たまたま病院という場で知り合ったわけですけれど、知り合った方を患者さんと思わずに付き合えたらいいな、と思って仕事をしてきました。

病院の看護師には、適した性格やスピード感があると思いますが、すべての看護師に、みな、その空気感が合っているわけではない。僕の職場に実習に来た看護学生の子は、とてもゆっくりていねいに、仕事に取り組む子でした。もともと慢性期医療の場で働きたいと望んでいた子なのです。それは彼女の長所なのに、当時の職場では、彼女はあまり評価されませんでした。

けれど、本来、病院であってもいろんなタイプの看護師は必要なのだと思います。スピードのある人、じっくり取り組む人。病気の部分を先に見る人、僕のように、その人自身と付き合いたい人。

糖尿病の人がいるとします。血糖値がとても高くて入院し、病院で管理をすれば、入院中、数値は下がります。けれど、退院後にまた高くなってしまう。そして、高いからと再入院してきたときに、「どうしてそうなっちゃうんですか?」と栄養士や看護師は叱り口調になる。

本当は聞き方のトーンを変えなければいけないと思うんです。その方をとらえなおして、生活の現場に合っている話し方をしないといけない。
病気になったのは結果であって、病気になる前のその人を理解しようとしなければ、わからないことがたくさんあります。血糖値が上がる食生活になってしまうには、なにか物理的な理由があったり、精神的な理由があると思うんですよ。

急性期の病院は、病気を治すことが使命ですが、乳腺外科では、残念ながらガンの末期になり、治らない人もいます。その方にどう接するか。最期の部分に知り合う機会を得られた僕が、その人の人生の中で知り合った人間として「悪くない」という存在になっていたい。それにはどうしたらいいのか…。

現在の職場である「ぐるんとびー」は、デンマークの牧師であり哲学者、教育者でもあったグルントヴィの思想がベースになっているという。
現在の職場である「ぐるんとびー」は、デンマークの牧師であり哲学者、教育者でもあったグルントヴィの思想がベースになっているという。

職場の外に目を向けると見えて来ることがある

そんなことを考えていたときに、地域で高齢者や障害者をサポートするNPOを立ち上げている人に出会いました。その方から、ユニークな介護職員や老人ホームの経営者などを紹介してもらいました。

驚いたことに、その人たちは、「患者さんを患者さんとして見ないで、その人自身と付き合う」なんてことは、ごく普通にやっていました。そもそも、利用者さんと介護職などといった、枠すらない。子どもも高齢者も職員も、みんな集ってワイワイやり、地域とつながって突っ走っている。

その中に、今の職場ぐるんとびーの代表取締役の菅原健介がいました。

悩んだときには、職場の中で小さくまとまらないほうがいい。外に外にと目を向けていけば、意欲のある人たちと知り合えて、自分の悩みが自然に解決することもあります。あるいは、今の自分の悩みは、放っておいてもいいのだ、と思えるときもあります。

そうした出会いをきっかけに、僕は菅原が立ち上げるという小規模多機能ホームに転職することになりました。

次回は、現在の仕事の内容を詳しくお伝えします。

*柳下将徳さんインタビュー 1回目2回目3回目4回目(最終回)

<小規模多機能ホームの看護師の仕事内容>

*柳下さんが勤務するぐるんとびーの場合

■訪問看護・施設看護指示書(医師の指示)に基づくサービス提供
■利用者の胃ろう・褥瘡などの処置
■体調急変時の判断や医師との連携
■利用相談
■介護職と同様の生活サポート
■宿泊利用者がいる日の担当宿泊業務
■介護職員に対する療養上の助言等
■ターミナルケア
■会議出席、事務処理