東埼玉総合病院のドクター、中野さんによる埼玉県幸手市の地域医療活動

学生の団体という枠から飛び出して、地域に、社会に貢献しようと活動している医療系学生団体Mi(Medical Innovation)。その1周年のイベントでは、すばらしい成果を出している3つの地域活動の講演が行われました。その講演内容をレポートします。
今回は、東埼玉総合病院在宅医療連携拠点事業推進室室長・中野智紀ドクターの講演です。

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医療と介護が連携すれば…

「埼玉県は、全国で最も医師数や看護師数(人口10万人対)が少ない都道府県です。中でも幸手市は高齢化がすすみ、リスクを抱えながらも医療や介護へ繋がれない住民が相当数潜在しています。

住み慣れた地域でだれもが暮らし続けていける地域をつくるのが地域包括ケアであるとしたら、どう実現するのか、それには、パーツとしての介護支援ではなく、トータルな医療介護連携が必要です。

私が勤務している幸手市では、『とねっと』という医療情報システムが機能しています。地域に生まれている方の診療情報を、生涯にわたり地域内でひとつのIDで踏襲できるシステムです。施設がかわっても救急で搬送されても、地域での情報のまとめができ、患者さんも、自分のタブレットやスマホで診療情報を管理できる。医師にとっても住民にとってもメリットの大きいシステムです。

しかし、これだけではまだまだ課題は満載です。医療だけで連携しても、うまくいきません。医療と介護がうまく連携する必要があるのです。急性期病院では、長期の入院がなかなかできません。すると栄養不良、貧困などさまざまな問題があっても、たとえば誤嚥性肺炎が治れば退院となってしまいます。しかし、栄養や口腔ケアの徹底がなされないまま、家で暮らしていても、また病院に戻ってきてしまいます。

介護単体で地域包括ケアをどれだけがんばっても、また、一病院がどれだけ救急を受け入れても、医療介護の連携が不足していれば、患者さんは複雑な問題を抱えたまま、入退院を繰り返します。

実は、医師ができることはわずかなのです。高齢者が地域で暮らしていくためには、介護職、理学療法士、看護師、栄養士などなど、さまざまな専門家が必要で、彼らがいい連携を取ってこそ、高齢者の健康は保たれます。

人材不足というのなら、潜在する休職中の看護師や栄養士を引き入れたり、学生さんの地域医療実習を入れたりと、さまざまな形で人を巻き込む必要があるでしょう。在宅医療で夜間対応が大変なら、たとえば病院の輪番でサポートする方法などもあります。」

住民主体で連携する地域ネットワークがカギ

『Third Place交流会』での1コマ。写真右が、中野先生。(写真左は次回ご紹介する小泉さん。真ん中は次々回にご紹介する上原先生)
『Third Place交流会』での1コマ。写真右が、中野先生。(写真左は次回ご紹介する小泉さん。真ん中は次々回にご紹介する上原先生)

「すぐには解決できないこうした問題をひもとくには、まず地域住民全体のワークが必要です。地域の医療介護の問題が何なのかを、具体的に挙げ、地域住民みんなで知恵を絞り、住民主体で行動するためのワークです。

高齢者や障害者に対する救急の対応が難しい、とよく言いますが、そもそも地域連携があれば、救急で運ばれなくてよかったかもしれない。

たとえば、先般、町中で統合失調症の人が明らかに幻覚などの症状で怖れ、震えていました。救急車を呼ぼうか、という話になりましたが、近くにいた看護師が『救急車は呼びません。この状態で、車という閉鎖空間に入れたら、もっと症状が悪くなります』と。そこで、地域のコミュニティカフェの場を借りてしばらく休んでもらいました。こうした判断で、当人の症状がやわらぎ、最終的には3週間の入院後、すでに現在は有償ボランティアとして活動しているといいます。

地域コミュニティとどうつながるか。これが、地域の医療介護連携のキーワードです。専門職だけでは不足です。しかし、住民に投げっぱなしではまた、難しい。そこで、幸手市では、東埼玉コミュニティーケアユニット “暮らしの保健室 菜のはな”が地域協働をコーディネートしています。地域の医療・介護・住民の状況に詳しい看護師が主体となり、地域をつなぎます。

行政がトップダウンでこうした保健室を作るのではなくて、住民が主体となって「こういう暮らしの保健室が必要だ」と声を上げる。これこそが、地域連携を実働させるカギです。我々医療職は、住民とどうつながるかを真剣に考えなければなりません。」

次回は、幸手市で介護予防型コミュニティカフェを開いている小泉圭司さんのお話をレポートします。

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