救急の専門クリニックを開業、ドクター上原 淳さんの医療の取り組み

Miの1周年イベントの記念講演第4弾は、川越救急クリニックを開業している上原淳ドクターのお話です。増え続ける119番コール、病院の救急医療の受け入れ困難……。日本をあげての救急医療問題に果敢に切り込むドクターのお話は注目です。

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「軽症の高齢者には救急搬送が不要」ではない

「救急搬送は、高齢者が半数を占める、軽傷の救急車両が多い、安易な利用を避けてほしい、と政府は言います。

確かに、大学病院の救急の負担は大きすぎる。どこも夜間は患者さんでいっぱいです。
以前私が働いていた大学病院などでも、発熱や下痢など初期救急で対応できる症状の方が多く、年間2万台の救急搬送の患者さんを診るのは、各科の先生でした。
医師が、給料が安くても大学病院で勤務するのは、自分の専門を深くやりたいからです。それなのに昼は外来、夜は軽症者の救急診療、本当の重症者は1日に1人程度。各科のドクターたちは精神的にも身体的にもぼろぼろでした。

しかし高齢者の多くは、独居、老老介護、息子や娘は離れた土地にいる。軽症といっても持病がある、すぐ重症化するかもしれない、相談できる相手もいない。夜間タクシーなどは、年金暮らしの高齢者は使えない。
しかも、高齢者はインターネットを使えないケースがほとんどで、『今、この時間に診てくれる医療機関がどこなのか?』といった情報がありません。

重症者は9割以上が受け入れられていますが、中等症、軽症だと受け入れ先に困るケースがたくさんあります。ニュースにならない搬送困難者がたくさんいるのです。
高齢者は油断すると重症化します。それに、自分の症状をうまく伝えられない人が多い。ER型の救急クリニックが必要だと思いました。」

患者さんのクオリティ・オブ・ライフを高める

『Third Place交流会』での1コマ。写真真ん中が上原先生。(写真左は前回ご紹介した小泉さん、右は前々回ご紹介の中野先生)
『Third Place交流会』での1コマ。写真真ん中が上原先生。(写真左は前回ご紹介した小泉さん、右は前々回ご紹介の中野先生)

「私は、川越救急クリニックを2010年に開設しました。16時から22時に開院、救急のほか、内科、小児科、外科、整形外科、麻酔科もあります。救急の受け入れをするうち、さまざまな症状で来院するため、総合的な診療が必要だと痛感したからです。

現在、医師3名、看護師常勤6名、非常勤7名 救急救命士非常勤3名 事務員常勤3名、非常勤6名 柔道整復師非常勤1名の体制で動いています。患者数は2014年、2015年は年間1万4000人近く。救急搬送は1700件以上。90数パーセントはその日に帰れます。

最近旬の在宅の診療は24時間対応が基本のはずです。しかし、身を粉にして働いているからか、『夜間は救急車を呼んでください』というところがたくさんあります。しかし、地域に救急車を受け入れてくれる医療機関がないと、困る。救命救急センターに行くような病態では無いことも多いですし…。
本当に、医療が必要な人になかなか届かないんです。ER型の救急クリニックは、その狭間を埋める役目を果たしていると思います。

テレビに出るたびにファンレターが来ます。読むと、『自分の住んでいる町にも、川越救急クリニックのような診療所がほしい』。一般の人たちがこんなに求めているのに、なぜできないのか。
そこで、救急クリニック協会を立ち上げました。私たちに賛同してくれる人が増え、『住みやすい社会を作ろう』と、各地に救急クリニックが着々と広がっています。

これから医療従事者を目指す皆さんには、『何が正義か?』を考える習慣をつけて欲しいと思います。世の中の経済界の人の正義は、経営を黒字にすることにあります。経済至上主義な社会では、生産性の少ない社会保障費、特に医療費を削減する必要があります。
でも、我々医療人の正義は、『患者さんの生命、クオリティ・オブ・ライフ』です。非効率だと思われる医療も必要なのです。
ところが、医療費が削減されると、病院は儲けようと思って、今までやっていなかった検査を増やします。無駄な検査料が増え、不必要な入院も増える。そして、不要な医療費がかかります。

救急医療でも、今年の4月から時間外の救急車受入の加算が増えました。その途端、今まで救急に興味がなかった医療法人などが『やってみようか、儲かるなら』と考えたりします。しかし、そういうことをやっていると、医療自体が世の中から信頼されなくなっていきます。

私は、所詮、医療って自己満足だな、と思います。その自己満足度を、患者さんや家族と分かち合えるといい。ただし、社会活動をする上では、経済的視点もやはり必要です。その中で、良い医療をするためにどうしたらいいかと、常に自分に問いかけながら行動していきたいと思っています。

人間は、他人の行動を自分に置き換えて動ける生き物です。若い人たちは、今のうちにいろいろな悪さもしてください(笑)。その経験が、将来、きっとプラスに働きます。自分の答えをみつけるためには、引き出しはあればあるほどいい。そのほうが、いい医療従事者になれるのではないでしょうか。」

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