もろもろの請求書を前に、「休んではいられない！」

3年間勤務した最初の病院を退職してすぐ、イタリアに行きました。「冷静と情熱のあいだ」という映画が好きだったので、その舞台となったイタリアに行ってみたかったんですね。フィレンツェ、ミラノ、ベローナ、ヴェネチア、青の洞窟･･･1週間の短い旅行でしたが、とても楽しく、リフレッシュできました。

病院からは「いつでも戻ってきていい」と言われ、先輩や後輩たちも「6月には戻るよね？　待っています」と寄せ書きに書いてくれていました。
4月に退職して、6月（笑）。他の業界ではあり得ないかもしれませんが、看護師は一度辞めた病院にまた戻るのはよくあることですよね。2カ月後というのはさすがにないとしても、しばらく休んでから、また戻るかどうか考えればいいと思っていました。

ところが、2､3カ月するうちに、思わぬことが起こったんです。住民税、年金、国民健康保険････いろいろな請求書がどっと届いた上に、もっと焦ったのは家賃でした。
それまでは病院の寮に住んでいたんですが、退職と同時に恵比寿の賃貸マンションに引っ越しました。当時の私には、ちょっと背伸びしたエリア（笑）。でも、亡くなっていく患者さんを見ていくうちに、人はいつ何があるかわからない、我慢をせず、やりたいことをやったほうがいいという気持ちになっていたんですね。

貯金もあまりなく、国家公務員だったので失業保険ももらえないんです。なので、とにかく家賃分だけでも稼がなければと、急ぎ派遣登録をしました。一つは、老人ホームへの派遣会社、もう一つはナース業務全般を扱っている派遣会社です。
お金のこともさることながら、仕事をしていないとヒマでヒマで（笑）。ちょっとでも休むと退屈になるナース体質に、私もすっかりなっていたようです。

相談しあえるナースの同僚がいる職場で働きたい

派遣では、修学旅行や林間学校の引率など、単発の仕事をいろいろやってみました。
修学旅行などは学校の保健の先生も一緒なので、保健の先生の仕事も見られて面白かったですね。薬を服用している子がいれば、ちゃんと薬を飲んだかどうか確認したり、いまはアレルギーの子が多いので、食事に気をつけたり。

訪問入浴や健診のバイトもしました。健診のときは、ひたすら採血したり血圧を測ったりするんです。いろいろな経験をするのもいいなと思っていたので、どれも勉強と考えてやっていました。ただ、どこに行っても、看護師は自分ひとり。いたとしても、1日だけとか、数日限りの単発の仕事では、ナース同士触れ合う機会はほとんどありません。

同僚がいない寂しさを感じたのは、とくに老人ホームの仕事をしている時でした。
私は夜勤を選んだのですが、日勤のナースさんと話をするのは引き継ぎの時だけ。血圧が高い方がいれば薬が必要だとか、食事も変えたほうがいいと思っても、ゆっくり相談することはできません。
同じ目線で話せる看護師と一緒に仕事をしたい。「それにはやっぱり、病院がいいのかな」。一度離れてみると、元いたところの良さがわかるとよく言いますけど、その通りでした。

看護学校の友達に相談すると、「うちの病院に来たら？」と言われ、すぐに試験を受けました。それが、最初の病院を辞めた年の9月。採用は決まったのですが、本採用となって勤務できるのは翌年4月から。そこで、半年限定の勤務に絞って派遣会社に登録し、民間の総合病院に転職しました。

次の大学附属病院までのつなぎですが、ここは看護師がなんでもするところだったので、点滴や注射、ストマづくりなど、技術が上がりました。また、派遣でいろいろ仕事をするなかで、心臓マッサージなど、救急の対応ができるようになれば、何かあった時に役立つだろうと思うようになっていました。

前の病院では患者さんを看取ることが多かったので、次は救急をやってみたい。新しい目標を見つけられた1年でもありました。

○　　　　　　○　　　　　　○