■書名:在宅医療多職種連携ハンドブック
■編著:医療法人社団悠翔会 監修:佐々木淳
■発行:法研
■出版年:2016年4月

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高齢者の「生」を深く考えるための貴重な一冊

医療の中心となるのは当然ながら医師で、患者さんの療養上の世話や診療の補助の中心となるのが、看護師だ。

しかし、在宅高齢者の場合、これだけでは完結しない。在宅での見守りや世話は家族が、リハビリは理学療法士が担う。介護保険サービスを使っていれば、ケアマネジャーをはじめ、訪問介護やデイサービスなどの職員も関与する。これらの専門職が同じ目線で患者さんに関わり、お互いが連絡を取り合って連携をすることが、患者さんの在宅生活を支えるカギになる。

本書は、タイトル通り、多職種が連携して、患者さんの健康を支えるためのハンドブックだ。中でも、「連携する上での、在宅医療のあるべきスタンス」をしっかりと教えてくれることがありがたい。

在宅高齢者の場合、治療を試みても病気が治らない場合が多い。治ったとしても、身体的・精神的な機能面が弱り、健康が危ぶまれることも多い。つまり、治療だけで高齢者を支えることはできないのだ。

在宅高齢者を支えるということは、「尊厳ある生」を支えることだと、監修者の佐々木淳ドクターは言う。「生」を支える先には「死」の存在がある。看取りを含めたその「生」をどうマネジメントするかを、本人の希望を中心にし、関わる全員が一丸となってサポートすることが大切なのだと解説する。

本書では、在宅医療に必要な知識として、低栄養やサルコペニア(骨格筋減少症)など、病気以前の、病気を引き起こす状態を教えてくれるほか、摂食嚥下障害、口腔ケア、シーティング、排せつケア、インフルエンザ、そして認知症…、高齢者に起こりがちなことをくまなく解説してくれる。病気だけでない、その人の生活を整えるための大切な要素に目を配り、トータルで生を支えようという熱意が文面からほとばしる。

それぞれのパートの執筆者は、在宅介護・医療の最先端を走る方々ばかり。第一線の方々の息吹を感じられる文章にもときめく。

監修者ミニインタビュー

02

医療、介護、リハビリ、栄養など、在宅医療に必要な連携を意義からノウハウまで伝える

高齢者の在宅医療には、多職種協働は欠かせません。しかし、認知症の周辺症状は薬で抑えるべきだと思っている看護師と、それはケアでなんとかすべきだという主治医とが闘っているのでは、問題の解決になりません。医療職同士で意見がまとまっていないのであれば、介護職だって、そんな中で介護するのは難しいでしょう。「ここに本質的な問題があるよね」という課題意識を、関わる全員が共有して、それを解決のための方法論とか課題意識につなげていかないと。

協働には、何より全員が同じ土壌に立つことが大切です。連携する専門職同士が尊敬し合い、同じ目的意識を持つことが、患者さんの尊厳を守ることになります。本書を編著した理由はそこにあります。

また、在宅栄養・リハビリ・摂食障害・嚥下障害・認知症などについては、学問としては知っているけれど、生活の中でどうみていくかの実践的な知識を持たない医師や看護師はたくさんいると思います。脳細胞のメカニズムは知っていても、認知症の患者さんにアリセプトという薬を飲ませると興奮してしまう、ということの経験はない場合が多い。

そこで、在宅医療という分野で、共有すべき知識をできるだけ網羅して記したつもりです。認知症緩和ケア、臨床倫理、死生観とか現場で悩んでどう考えたらいいかわからないということについても、専門の諸先生方にご意見をいただきながらまとめています。

本書は在宅医療に関わる医師や訪問看護師はもちろん、病院や介護施設の看護師にもぜひ読んでいただきたいですね。入院や入所は、在宅医療にはつきもの。場所を変えて療養する先で、看護師が連携の輪に率先して入ることが、患者やその家族を安心させ、よりよい「生」を実現する要になると思います。

<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>