栃木県立がんセンターに勤務する高田芳枝さんは、病院でのキャリアを10年積んだところで、母校の教員になりました。教員になっての7年間を通じて、何を得たのか。またその後の大きな転機についても、お伝えします。

*高田芳枝さんインタビュー 1回目(前回)

高田芳枝(たかだ・よしえ)さん

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栃木県立衛生福祉大学校卒業後、栃木県立がんセンター勤務。血液内科・骨軟部腫瘍科、手術室、ICUを経験した後、人事異動のため母校の看護教育に従事する。教育にやりがいを見出し、大学院入学を考えていたころ、乳がんを発症。治療後、児童福祉施設の看護師として勤務し、後に栃木県立がんセンターに戻る。緩和ケア、外来化学療法センターを経て、画像診療部門の担当に。2年前のマギーズ東京設立の構想時点からスタッフとして関わり、マギーズ東京のヒューマンサポートチームの看護師としても活動中。
(マギーズ東京に関しては、こちらを参照)

老年看護学を学び、大学院に進学したいと願う

――栃木県立がんセンターから母校の教員へ。戸惑いはなかったですか?

新しいことをしたいタチなので、むしろありがたかったですね。10年病院の看護師をやってきて、吸収させていただくことが一段落していた時期なので、新たな挑戦ができる職場には喜んで出向きました。

1年間は、厚労省の看護教員養成研修を受けました。教員になるためにはこの研修は必須ではなく、法的には「努力義務」と規定されていましたが、勉強だけに費やす1年間をいただけるのは、ありがたいことですし、よりよく指導するためには必要と思い、取り組みました。

研修は午前3時間、午後3時間の授業というと、まあ普通の学生なみ、と思うかもしれませんが、グループワークやその準備に忙殺され、「寝る暇がない!」という1年間でした。日々レポートの締め切りがあり苦戦しましたが、そのおかげで後に文章を書くときは比較的スイスイと書けるようになりました。苦労してみるものですね。勉強で得た知識だけでなく、教育実習での学びも多く、大きな力になりました。

研修や教育実習が修了し、教員として学生に指導したのは、「老年看護学」です。ちょうど介護保険が始まり、世の中の仕組みが変わる時期。基礎看護学を希望していましたが、医療と介護がどう連携するのか、という節目の時期だったので、ぜひともこの分野は学んでおきたいと思い、担当が変わることにも抵抗はありませんでした。

ただし、この頃はカリキュラムが大きく変わる時期で、老人看護学から老年看護学になり、在宅看護論も設置された時でした。教育内容にそれまでの積み重ねがなかったので、苦労しましたね。一から勉強して教えるところまで持っていくには、自分が猛勉強しないといけないので、また眠る暇がなくなって。

しかし、18歳の若い世代を3年間教えることで、見違えるように大人になり、看護の学びも吸収して卒業していく。その姿を見るのがうれしくて、やりがいは大きかったですね。また、老年看護学の学びの中には、当然、「認知症の医療やその看護について」という内容があります。患者さんの心に寄り添い、患者さんに穏やかに過ごしていただく看護を目指していた私にとって、認知症を学び、教えることは非常に興味深く手ごたえがありました。

もっと老年看護学を学びたい。しっかりと学んだら、看護師を目指す若者たちに、高齢者の患者さんをどう看護すべきかを、基礎から教えたい。そんな気持ちがどんどん高まっていきました。最初の1年間は研修に費やしましたが、卒業生を1回送り出し、2回目の学生が3年生の夏を迎えたところで、「大学院に行って専門的に老年学を勉強し、大学で教えたい」と考えるようになりました。

それを考えるためにも、日常を忘れてちょっと旅をして来よう。学校に勤務先を移して7年目の夏、私は休暇を利用して、インドに出掛けました。

旅行先のエステで乳がんを発見

高田さんが現在所属している外来Ⅱのナースたち(左端が高田さん)
高田さんが現在所属している外来Ⅱのナースたち(左端が高田さん)

――そのインド旅行が、大きな転機になったのですね。

はい。現地でアーユルヴェーダアロマテラピーのマッサージを受け、胸の脇にアロマテラピストの手が触れたときに、小さな硬いしこりを感じたのです。そして、マッサージによって引っ張られると痛い。まさか……、と思いました。

当時はまだ、30代。がんなんて、自分には関係のない病気だと思っていました。ちょっとびっくりしましたが、気持ちの切り替えは早かったです。

勤務していた病院で乳がんの手術を受けました。5年間は術後補助療法としてホルモン療法を受け、今に至ります。もう15年以上も前のこと。つまり、私自身が、キャンサー・サバイバーです。

次回は、手術後に職場を移し、病院へと戻っていく高田さんの様子をお伝えします。

<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>

*高田芳枝さんインタビュー 1回目(前回)

高田さんの現在の職務である、「画像診断担当看護師」の仕事内容

*高田さんが勤務する栃木県立がんセンターの場合

■内視鏡、IVR、造影、CT、MRの検査介助
■技師やドクターなど、多職種と連携し、結果から診断につなぐ
■後輩ナースを指導しつつ、仕事がスムーズにすすむように連携
■後輩や実習生の教育研修プログラムを作り、実際に研修を行う
■倫理委員会のメンバーとして会議に出席、資料づくりもする